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構図の解説 ルノワール「船遅日をする人々の昼食」


「船遅日をする人々の昼食」ピエール=オーギュスト・ルノワール

1876年、油彩、カンヴァス、129.9 cm × 172.7 cm (51 in × 68 in)

※ パブリック・ドメインの画像を使用しています

 


 

私は自分の絵画教室で構図の話しをするときに、よくこの絵を例に挙げて説明します。

 

素人目線では一見自然に見える状況に感じる画面が、ペインター目線で見るとひと目で不自然といいますか、かなり計算されている面白い構図です。

そのようなことで、ペインターがいかに意図的に絵を描いているか説明したいと思います。

この作品についてのWikiを見ると、描かれた人物の詳細が分かりますが、私の場合は上記の通り構図に注目し、ペインター視点からこの作品を分析します。

ちなみに、構図は複雑ではありますが、分析しやすい部類に入ります。

 

ルノワールといえば、印象派の新しい表現から次第に距離を置きつつ、人物描写に注力した画家という印象を持っています。

しかし、この作品では人物よりも明らかに構図に重きを置いていると感じられ、その点が非常に特徴的だと考えます。

 


今回の絵は、この西洋美術史の本の中に掲載されているので、よくそれを使って説明しています。

入門書して分かりやすいのでお勧めです。 

 

あと、教室にある構図の基礎についての本を紹介しておきます。


構図の中でも人物の視線(導線)に注目した解説



この作品の魅力はダイナミックな視線誘導(導線)


構図において、画面上の人物の視線は非常に重要な要素です。

その理由は、描かれた人物の視線の方向が鑑賞者の視線を自然に誘導するからです。

これを「導線」と呼ばれます。

 

 

なお、これは画家が意図的に仕組んだ場合だけでなく、配置次第で無意識的に起こります。

この作品では、その視線誘導(導線)が非常に計算されており、巧みに活用されています。

 

さらに、構図の基本として「導線を画面外に出させない」というセオリーがあります。

厳密には、一旦画面外に出た導線が再び画面内に戻るという構成もありますが、完全に画面外に出てしまうと鑑賞者の意識も画面外に向かい、結果として作品への興味を失わせてしまいます。

 

 


まずは、人物を距離感でグループ分けしてみる


説明の関係上、先にこの画面の人物の配置についてグループ分けをします。

 

【前景】男性(②,③)がいる、手前のテーブルにいる5人

【中景】女性(①)がいる、画面中央付近にいる女性のいるテーブルの4人

【後景】男性(④a)がいる、一番奥で立ち話をしている男性2名

【その他】女性(④b)画面右上にいる3名(グループとしては後景とも言える)

 

こんな感じに分けれます。

 


視線のスタートは中央の女性(①)から


まず、この絵を見たときに最初に目に入るのは、画面中央で顎に手を当てた女性(①)です。

これは、画面中央付近が自然と視線を引き付ける位置であること、さらに女性の周囲に広い空間が確保されていることが理由です。

この女性(①)は向かい合っている男性を見ているようにも見えますが、鑑賞者の視線は次第に②の男性に誘導されます。

その理由として以下が挙げられます。

  • 向かい合っている男性が画面に対して背を向けており、顔が見えないため視線が流れやすいこと。
  • 男性が女性(①)を見つめているため、鑑賞者の視線が一旦女性(①)に戻る構図になっていること。
  • 男性の衣服が背景と明暗や色彩が似ており、目立ちにくくなっていること。

これらの要素が巧みに組み合わさり、視線の誘導が計算されていると言えます。

 


視線は女性(①)がいる中景から、前景の男性(②,③)のグループへ


男性(②)がいる前景に視線が移動すると、次に向かい合っている女性に視線が動くと思います。

この女性と犬はお互いに見つめあっているのですが、女性(①)と男性(画面に対して背を向けている)が見つめ合っているのと同じ構造です。

犬は背景と似た明暗や色で描かれているので目立ちません。

 

 

また、この女性は男性(②)を見つめているようにも見えるため、視線は再び男性(②)に戻ります。

男性(②)の周囲にはその女性や立っている男性が配置されていますが、視線は最終的に男性(②)に引き寄せられる構図となっています。

 

 

男性(②)に視線が戻ると、次は男性(③)に視線が移動します。

 

この男性は奥の方向を見つめているため、鑑賞者の視線も自然と奥(後景)へ誘導されるように設計されています。

 

 


視線は前景から後景へとダイナミックに移動する


後景に視線が動くと、シルクハットを被って画面から背を向いている男性(④a)ではなく、その隣にいる正面を向いている男性に視線が移ると思います。

そして男性(④a)を見たとしても、これまでと同様に正面を向いている男性に視線が誘導されます。

 

また、その「正面を向いている男性」は、不自然さが際立ち、作者による意図的な視線誘導(導線)が計算されていることが分かります。

 

その理由として、もし男性(④a)と自然に会話をしている状況であれば、顔は正面ではなく、男性(④a)を見るために少し斜めを向くはずだからです。

 

この不自然な正面の姿勢によって、鑑賞者の視線は自然と彼の目線を追い、中景や前景の女性へと誘導されます。

このように、この画面の主な視線誘導(導線)の構造は巧みに設計されていると言えるでしょう。

 


その他の視線の移動


男性(③)の視線は、後から気づくことが考えれますが、女性(④b)を見ているようにも感じられます。

これは、女性(④b)の配置が画面端なため、男性(④a)のほうが視覚的に目立つからです。

また、女性(④b)には二人の男性の視線が集中しているため、鑑賞者の視線も自然と(女性④b)に戻ります。

そして、女性(④b)の視線が再び女性①に向かうことで、視線の流れが画面内を循環していきます。

この画面上で上記の導線のシステムをルノワールは何度も意図的に使用していることがわかります。

 

 


他にも細かい話はいろいろあるのですが、長くなりすぎるの省略します。

今回はルノワール作の「船遅日をする人々の昼食」についての構図のお話でした。